―――何故逃げる、怖いのか?


怖い?


私には怖いと言う概念が分からない。


女は内なる自分か、その類いの者の語りかけに応答していた。


少なくとも辺りに誰かがいる気配はなかった、先程までは・・・


ポニーテールをなびかせて森を疾走する女の数メートル後ろには厳つい男が2人迫っていた。


威嚇射撃と言わんばかりに女の足元すれすれを狙って発砲してくる2人に殺意はない。


彼らは上からの命令でこの女を連れ戻すように言われたのだ。


必ず生け捕りにしろと。


ここが何処かは分からないが街にさえ出れば・・・


思考が侵されていないことに安堵した女は更に走るスピードを速めた。


追っ手の男たちはアスリートでもなければ陸上経験者でも何でもない。


体力のない2人は足を止めて女に引き金を引くほかなかった。


しかし息切れで、上下する照準を定めることすらままならない彼らの放った銃弾は女に当たるどころか掠りもしなかった。


追っ手を撒いたことを確認して近場の木の根元にもたれかかる女。


―――さぁ、戻れ。まだ遅くはない。


私には戻る理由が見当たらない。


―――逃げる理由も見当たらない、そうだろう。


自分を取り戻す為に私は前へ進んでいるだけなのに逃げていると思われていたとは心外だ。


―――自分を取り戻す・・・か。確かに前へ進めば何かしら得ることが出来るだろう。だが失うものも大きい。それなら何もしない方が良いだろう。賢いお前なら分かるはずだ。


裏を返せばそれは何も得ることが出来ないということになる。


賢いお前なら分かるだって? 貴方に私の何が分かるというのか。


茶番はこれぐらいで終わりにしよう。もう貴方の戯言にはうんざりだ。


―――ま、待て、何をする気・・・だ・・・


女は懐に隠しておいた小型のナイフで自分の右腕を突き刺した。


脱走する際に護身用としてくすねておいたものだ。


とんでもない激痛に声を上げそうになるがぎりぎりのところで抑える。


しかし予想していたよりも痛みは遥かに軽かった。


今だけは私の体を何かしら弄った連中に感謝をするとしよう。


それから腕が完全に千切れるまで女は幾度となくナイフを振り下ろしていた。


木の根元には血が大量に飛び散り、腕からは絶え間なく血が流れ出ている。


例の声が聞こえなくなったのは良いものの、次第に痛みが鮮明になっていき、声にならない叫びを上げた女はそのまま意識を失った。



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